ごあいさつ(2022年)

新年のご挨拶

令和5年1月6日

令和4年度 触媒学会会長
山中一郎
YAMANAKA Ichiro
(東京工業大学)

2023年のご挨拶をさせていただきます.
 COVID-19の流行に加えインフルエンザの流行も懸念されるこの頃ですが,いかがお過しでしょうか.
 健康に注意を払わなければならないことは言うまでもありませんが,後ろ向きあるいは下を向いていては何も始まりません.前を向いて少しでも研究開発の活動を推し進めることが肝要かと思います.
 昨年度の秋の触媒討論会は,久々の対面で行われたことは記憶に新しいと思います.対面開催にこぎつけるまで,討論会委員会,現地実行委員会,そして関係の先生のご苦労は並大抵のものではありませんでした.改めて御礼申し上げます.その甲斐あって,大成功を収めました.
 Webでの学会やシンポジウムなどは,時間と距離の障害を著しく下げ,これまでならスケジュールの関係から参加を諦めていた場合も参加できるようになり,また目の前の画面でスライドがはっきりと見えることなど,やや音声が途切れても大変な利便性を感じていたと思います.しかしながら,Web上での発表ばかりが続くと,なにか物足りなさを感じた方も多くおられたと思います.
 私自身も,物足りなさを感じた一人です.討論していても今ひとつ心に感じるものがありませんでした.本質的な討論ができていないのではないか,表面的な情報交換に終始しているのではないかと感じていました.
 この心象は対面での触媒討論会に参加して間違っていないと確信しました.生の発表と質疑応答から得られる情報量の多さに改めて驚きました.心に感じるものがありました.生の人間を目の前にして行う議論の過程は,普段考えも及ばない解釈や方向性へのヒントとなることが良く分かりました.
 COVID-19前の学会では,マンネリと感じていたものが,実際には何と熱く生き生きとしていたものなのか,問題は受け取り側にあったことを認識した次第です.
 この感覚は,学生さんたちにはもっと新鮮であったと思います.なにせ今まではWeb発表しかなかった訳ですから.このポジティブな経験を生かして,どんどん発表して,どんどん議論して,どんどん科学者として成長することを期待しています.実力の付いた科学者にとってはWebの活用はまさに活性化エネルギーを劇的に下げる触媒であることは言うまでもありません.
 カーボンニュートラルが実現できるか否かは,人間が地球上で生き続けられるかどうか,重要な要素の一つであることは間違いありません.2040-2050年に大活躍している触媒化学を基盤とする科学者を養成することが私自身の責務であると感じています.
 今春3/16-17の日程にて神奈川大学みなとみらいキャンパスで開催される触媒討論会では,これまでのB1講演,B2講演に加え,学生を対象としたB3講演が設けられ,多くの申し込みがありました.これから大きく成長することが期待できる学生さんたちです.会員の皆様の真剣かつ生産的な質疑を期待しています.
 また,討論会に加えて大変好評な特別シンポジウムが開催されます.今回は「酸素欠陥~その構造と特異反応~」および「循環社会構築に向けた廃プラスチックのケミカルリサイクル」です.このテーマについて,最新かつ幅広く現状認識を行うことができます.
 触媒学会会員の皆様におかれましては,是非とも対面での触媒討論会にご参加いただき,活発な意見交換をしていただくことを願っています.触媒討論会の活性化が,2028年ICC招致につながると確信しております.よろしくお願いします.

会長メッセージ

令和4年6月10日

 このたび令和4年度の会長に選出されました山中一郎です.学生のころより,触媒学会にて科学者としての研鑽を積ませていただきました.触媒学会研究発表会で初めて発表し,また初めて質問したときの感動は今でも心の中にあります.
 新型コロナウイルス感染症禍,令和2年度田中会長,令和3年度朝倉会長の元,触媒討論会や研究会がオンラインで実施され,会員の皆様の意志とこれまでの実績により学会としての活動と社会的役割が継続できていると感じているとともに,このままでは発展的活動には結びつかないと危惧しています.皆様も多角的観点から,オンライン活動のメリットとデメリットを感じられていると思います.私としては,触媒討論会や研究会におけるライブの討論や意見交換の実体験が基盤となり,オンラインの特性が効果的に活用できると考えています.理事会メンバー,討論会委員会,各委員会,各研究会の皆様と意見交換しながら,発展的な学会活動の方向性を見つけ出したいと考えています.
 今更言うまでもなく,地球環境の劇的な変化の中,カーボンニュートラル(CN)の実現に向けた取り組みは待ったなしの状況です.CNを実現するためには,エネルギー,プロセス,経済,社会など各分野がすべて連携する必要がありますが,触媒化学技術が心臓部であることは言うまでもありません.我々は極めて重大な課題に直面しており,やりがいと共に責任を背負うことになります.これに答えるためには20年先,30年先を見据えた触媒化学技術の革命的進化を成し遂げなければなりません.革命的進化のためには永続的な研究開発が不可欠であり,これを担う若手研究者の育成が重要課題です.現学生を含め産官学の若手研究者の研究活動の活性化と支援が重要です.
 若手研究者の育成のための具体的な方策の一つとして,例えば春・秋の触媒討論会における発表の場や形式に関して,より進化した形態があるのではないかと考えています.討論会において真摯な議論や建設的な意見交換を行うことにより,産官学の若手研究者のアクティビティーが向上し,ひいては学会全体の活性化に結びつくと思います.
 以前も触れましたが,CNとは関係なしに革新的触媒開発による化学反応の効率化とその触媒化学の解明は科学の命題の一つであり,少しでも進化を続けなければなりません.自己満足の研究のための研究ではなく,産官学の連携による前を見据えた革新的研究を応援したいと考えています.
 世界が不安定な状況にあっても,オリジナリティー溢れる研究の実施と世界中の科学者との自由な議論を実のある形で継続することが重要であり,この意味合いにおいて7月に開催される TOCAT 9th は極めて重要です.皆様の積極的な参画を期待しております.また,学会として2028年ICCの日本招致に向け,2024 年ICC(リヨン)において日本の触媒化学技術の存在感を示すことが重要であり,学会として持続的招致活動を行うとともに,皆様のご助力をお願いする次第です.